輸送後のトリートメントについて

養魚場からもってきた場合や、輸入している問屋ではどんな病原菌を拾ってくるかわからない。

「そこ」で大丈夫でも「ウチ」ではうまくいかなかったということもある。

輸送した後、どんなに気をつけていても、細菌は目に見えないのだからこれに気を使うのは当たり前だ。

そこで寄生虫の駆虫や病原菌の殺菌、さらに輸送で消耗した体力を取り戻すなどの措置が必要となる。

下手をすればバタバタと倒れていくのに気づかないというとんでもない事態まである。比較的新しく知られて知らなかった病気とかはまだ仕方ないにしても、強い伝染病に感染した生き物を気づいているのに売るというのはもうまともな店ではない。

だが世の中もっととんでもないものがある。それが次の事例・・・

・参考までに某店での信じられない嘘のようなホントの話

あるときネオンテトラがネオン病にかかった。もちろんまともなトリートメントはされていない。ところが発見したとき店長不在で、殺処分もできずに挙句の果てにお局バイトが「見た目が悪いから~」の一言でなんと一匹ずつ死ぬのを待って取っていけと。

ネオン病は飛沫の一つですら隣の水槽に感染しうる病気である。そこで使うたびに網から手まで徹底消毒していかなければ危なくてしょうがない。

当然ほかの作業がまともにできない。

案の定こんなアホなことやらせて、「見た目が悪いから~」の一言で水位を下げて飛沫による感染の拡大を防げず、周囲の水槽のカラシンは翌日には全滅していたというまったく洒落にもならない店がある。

もっと洒落にならないのは、この状態のネオンテトラを平然と売ったということだ。あまりにあきれて、この月に辞めた。

さて、これだけ書けば輸送後の態勢の立て直しというのがいかに重要かわかってもらえたかと思うので本題。とりあえず普段の手順を書いてゆく

1・水温と水質に慣らすためにビニール袋ごと浮かべる。

おおむね30分程度、あまりに温度差があるときは数時間かける。

次に、水槽の水を袋に少しずつ入れる。一応サンプル写真なのでコリドラスのいるところにレッドスネークは入れてない。コリドラスファンのかたがた、ご安心を。

次に袋を開け、水槽の水を15分ぐらいかけて袋に注ぐ。エイのように特別に水質の変化に弱いような生き物でもなければ元の水量の倍程度水槽の水を入れておけば殆の場合で問題ない。この際は袋の水が水槽に入らないように気をつける。

この作業が終わったら、魚のみを水槽に入れる。

水質変化に弱い魚は、この写真のように、コックつきバケツを使いチューブでゆっくりと水槽の水を注いでやる。

ちなみに点滴バケツって名前で、600円です。ベースのバケツはかなり使いやすいです。水換え・水あわせ・濾過槽の掃除・病魚の隔離と、あちこちで活躍しています。容量は8リットル。

病気の持込が心配なときは、袋の中で魚をイソジンや過マンガン酸カリウム溶液で数分泳がせて消毒する。

魚種によって使い分けるが、大抵イソジンで済む。

イソジンを海水魚で使う場合は、沃素濃度の低い海水で飼育されていた場合に沃素に対する耐性を失っていて沃素で中毒を起こすことがあるので注意する。

2・次に大事なことは魚を落ち着かせることである。

それには暗くするのがよいのだが、ガラス張りの水槽では昼間に移した場合、ビニールシートをかぶせたりしないと遮光できない。

そこで以下の作業は普段夕方から開始としている。

光に当てないというのにはもうひとつ意味がある。

それはマラカイトグリーンやメチレンブルーの薬効を落とさないためでもある。

3・スレ傷などがありそうな場合、用意しておく水は0.5%程度の食塩水もしくは好適環境水をはなっから用意しておく。

ここには粘膜保護剤を入れておく。2011年に行った実験ではアクアセイフやプロテクトXを使ったところより粘膜保護剤を使ったところのほうが生存率は高かった。

過マンガン酸カリウムは全般的な消毒と、特にキロダクチルスに効果が高いのでこれを使っている。

いざ持ち込んだとき、キロダクチルスを持ち込んで白雲病になるほうがよっぽど怖い。

というか、高校生のころに持ち込んだときにこれが無くて金魚・熱帯魚を5万円分くらいやってしまったことがあるのでキロダクチルスの方がよっぽど怖い。 軽くトラウマ。

ちなみにイソジンは乾燥していくときに最大の効果を発揮する。

まさかイソジンに漬けた金魚を乾かすわけにもいくまい。

それでもかなりの効果を発揮する。

4・マラカイトグリーンかメチレンブルーとアクリノールの混合薬を投入。

寄生虫がいそうなところはリフィッシュとかマゾテンみたいなトリクロルホンを使った薬剤を併用して駆虫。

最後に薬品を入れるのは、マラカイトグリーンなどを使った水に必要以上に手を入れるのを避けるため。マラカイトグリーンは使い方を間違えれば人間にも毒性をいかんなく発揮してくれる。

この順序を間違えて、わざわざ新鮮な溶液に手を突っ込むなど

どこぞの国の近代化以前の農業で下肥をまいてから田植えをして集団で感染症にかかるというような極めて間抜けなことになる。

5・ここからは補足。

エロモナスなどほかの病気も怪しげなときは、マラカイトグリーンなどの薬効がなくなったころを見計らってまず殺菌灯動員!!このために移動が簡単な吊掛式にしておいたのだ。

薬効が無くなってからというのは紫外線を直に当てるので、薬品の変質による有害化を避けるため。

これでもまだ怪しいor明らかに感染している場合はイソジンを添加する。

一応この手順で殆どの病気を持ち込むことはなくなった。

なお、消毒には余り複数の薬品を同じ水に入れてしまうのは好ましくない。

そこで、投与する薬剤を少数に絞ったほうがいい。

そうなると、グリーンFゴールド やマラカイトグリーンとアクリノールの混合薬などがいい。

パラザンの主成分はオキソリン酸でグリーンFゴールドの主成分はサルファ剤だから、すれ傷への効果も考えて、グリーンFゴールドだけで十分。この二つの成分はエロモナスに有効で特にオキソリン酸はエロモナスによる感染症への特効薬ともいえる。

しかし、オキソリン酸は高価で試薬としても10gで15000円とか言う結構ふざけた値段。

観賞魚用ともなればg単価はどんどん上がる。

ましてや結構強い薬なので症状も出ていないのに特効薬をばら撒く必要はない。

水中に少々漂っているくらいならグリーンFゴールドで充分だ。

過剰な薬剤の投与は内臓への負担にもなる。

ほら、ここに薬剤の過剰摂取で肝臓壊した人がいるしw

これが普段行っているトリートメントで、一度様子を見ただけのものを出すにはこのぐらいするのが当然である。

全部とは言わないが・・・

・ 水温水質あわせ

・ 有益な細菌を移植するとき以外は買ってきたときの袋の水は水槽に入れない。

・ 簡単でもいいから消毒をする。

・ 例外的に餌切れに弱い生き物以外は、餌を必ず当日は与えない。

これさえ守ってもらえばほとんど移動で死ぬようなことや、病気を持ち込まないように扱えるはずです。

ちなみに当たり前なことですが、こちらから発送するときは、前日から餌を抜いてから送っています。